東芝と言えば、日本で初めて白熱電球を製造するなど、日本のあかり文化を牽引してきた企業だ。LED照明でも高い技術力を誇る。ただ、その技術力を芸術作品追究のために用いたのは、今回が初めてだったと言う。
「プロジェクトには東芝だけではなく、フランス、イタリアなど、芸術や絵画に精通するさまざまな国の技術者たちが参加しています。メンバーそれぞれが各分野のプロフェッショナルで、個性も主張も強い。意見をまとめるのに苦労したこともありましたが、議論を重ね、全員の英知をしぼりきって完成したのが『モナ・リザスポットライト』なんです」。
プロジェクト開始から1年をかけて完成したこのライトは、色の劣化やひび割れを目立たなくし、保護ガラスによる緑色も補正。従来に比べて、染料の劣化も低減できる。
「ルーヴル美術館を訪れる年間1,000万以上の人々に、モナ・リザ本来の姿を鑑賞してもらえるようになった。そこに照明技術で貢献できたことが嬉しいですね」。
新しい照明を手に入れたモナ・リザは、魔法の光をまとったように、表情豊かに微笑んでくれる。
ルーヴル美術館の照明改修プロジェクトは2010年にスタートし、2011年にはピラミッド、ピラミディオン、パビリオン・コルベールが、2012年にはナポレオン広場の照明改修が完了している。そして2013年は、モナ・リザのほか、「赤の間」の天井照明改修も行われた。
「赤の間は、自然光が射し込むガラス天井になっていて、照明はガラスの上に設置されています。そのため、もしも照明器具設置時に部品などが落下すれば、多くの来館者に怪我を負わせかねない。そこで、照明そのものの開発に加えて、ネジやナットを用いずに器具を固定できるようにするなど、器具をルーヴル美術館の構造物へネジなしで固定できる構造を開発。また欧州で標準的に販売されているコネクターで器具に給電できるアダプターを採用しました。」
照明の一新により、自然光を採りいれつつも、天気や時間を問わず一定の照度を保てるようになった。また器具総消費電力60%低減、器具総重量72%低減を達成し、高い省エネ効果も実現している。