「モナ・リザの照明改修で目指したのは、従来よりも絵画の劣化を低減できる照明に切り替えることと、失われた色彩、表情を回復させることでした。LED照明は、色や明るさをさまざまに制御することができますが、フランスでは『太陽光』が基準。このプロジェクトでも、『太陽光で見たモナ・リザ』の色や質感を、染料を劣化させない光源で再現することが求められました。そこで、東芝のLED照明技術を駆使して、極めて高い平均演色評価数を保ちながら、色味や照度を自在に調整できる『モナ・リザスポットライト』を開発しました」。 同じ物でも、蛍光灯の下と太陽光の下とでは、色などが異なって見える。平均演色評価数とは、光源によって対象物の見え方にどれほど差があるかを示す指標で、100に近いほど太陽光(基準となる光)に近いことを表す。モナ・リザスポットライトは、染料を劣化させる青い光を極限まで抑えながら、平均演色評価数98を実現した。 |
モナ・リザスポットライトは、絵画下の台に埋め込まれており、下から絵画を照らす |
「モナ・リザスポットライトの内部には、多様な色を発するLED照明34個が集結しています。それぞれからの光を融合し、1点から照射するのですが、その光が絵画以外に当たっては意味がない。特殊なレンズを組み込んで、額の内側の絵画部分にだけ、色ムラなく均等に照射できるようにしています」。 モナ・リザスポットライト。この中に34個のLED照明が入っている。 |
このライトで生み出せる光は、何万通りにおよぶ。その中から、モナ・リザに最も適した光を決めるのは、フランスで3本の指に数えられるというルーヴル美術館の学芸員、ヴァンサン・ドリュヴァン氏の「感性」だ。
「『太陽光で見たモナ・リザ』の姿は、彼の頭の中にしかないんです。“赤を何%アップ”というような具体的な指示があるわけではないので、OKが出るまで、微調整しては確認、の繰り返し。彼の尺度・感覚を読みとって、ベストな光を探り当てるのに、一番苦労しました」。