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企業のESG情報はどのように収集・活用されているか
〜ブルームバーク シニアESGアナリスト
グレゴリー・エルダース氏 インタビュー

世界140カ国以上で、経済・金融情報やデータ、関連ニュースなどを配信しているBloomberg L.P.。その中でも、2009年から始まったESGデータの提供について、データ収集の手法や活用方法、展望などをお伺いしました。取材・執筆:Sustainavision Ltd. 代表取締役 下田屋毅氏 / インタビュー実施:2013年12月

ブルームバーグのESG情報収集の手法


━━━まず、ブルームバーグのESGデータとはどのようなものか、また、ESGチームがどのように活動しているかをお聞かせください。

エルダーズ氏:

ブルームバーグのESGデータベースでは、グローバルで1万社をカバーしています。その1万社のうち、アメリカではRussell3000指数を、日本はTOPIX指数をカバーしており、グローバルではMSCI Worldをベンチマーク指数としてデータベースの更新を行っています。
2008年から社内で公式にESGデータを収集し始め、2009年にESGデータをブルームバーグ端末にリリースしました。

企業ごとにESGデータを収集しており、二酸化炭素排出量や災害発生件数、取締役の数などの定量的データのほか、ポリシーなどの定性的なデータについても収集しています。このような定性的なデータは、企業がそのデータを持っているかどうか、Yes・Noで確認できるようになっています。また、データをクリックすることによって、簡単にデータがどの報告書から収集されたのかを確認することができるようになっています。

BloombergのESGデータベースの「Overview」画面。各企業のESGディスクロージャーの総合スコア、環境・社会・ガバナンスそれぞれのディスクロージャースコアと関連データが、年次で一覧表示される。

━━━このシステムの想定利用対象は投資家ですか?

エルダーズ氏:

誰でもが活用することができますが、多くの利用者は投資家ですね。そのほか、国際的な企業のIRチームの方々、企業のCSRチームやコンサルティング会社のCSR/サステナビリティチームも情報を確認することに役立てています。

━━━ESGの情報の収集はどのように行っているのでしょうか。

エルダーズ氏:

世界の拠点にESGアナリストがおり、全体がひとつのチームとして活動しています。アナリストは世界に全部で約10人です。東京には黒﨑美穂氏がおり、ソウルに1人、香港に1人、ロンドンに3人、ニューヨークに4人います。これらのアナリストが情報を収集しデータのエラーチェックを行っています。

━━━どのような企業情報を使用して情報を入手していますか? たとえば、CSR報告書やWebサイトなどを通じてでしょうか?

エルダーズ氏:

企業のアニュアルレポートや、CSR報告書、Webサイト、コーポレートガバナンス報告書、有価証券報告書などを参照して情報を収集しています。すべてブルームバーグ独自で企業のWebサイトから収集しており、第三者機関のデータベースなどは基本的に使用していません。
ただ、CDPの情報についてのみ、第三者機関のデータとして入れていますが、CDPが開示している情報をそのままブルームバーグのデータベースに反映させているだけです。ブルームバーグのデータベース用にデータを調整するということはしていません。

企業のWebサイトから収集されたリリース文書や報告書などはデータベースに登録され、キーワードや文書の種類、発行時期などですぐに検索できるようになっている。

データベースに登録されているデータのリソースを知りたい場合は、データをクリックするだけで、参照元の報告書等の該当ページが開くようになっている。

━━━アンケート・質問状などを企業に送付して、情報を収集することはありますか?

エルダーズ氏:

企業に質問状を送付することがありますが、確認したいデータについて理解できないときにのみ行っています。たとえば、時々データが複雑でわかりにくい場合や、データが間違っていると思われるような場合があるので、その時だけ送付しています。それ以外は特に行っていないですね。

━━━データの開示量は企業によって異なると思いますが、そのデータ量の多寡によってデータベース上で表示が変わるようなことはありますか?

エルダーズ氏:

ブルームバーグのデータベースには「ESG開示スコア」があります。これは、どのくらいの情報量があるかを測定し、100を最高点として0〜100までの範囲で示しているものです。
また、異なる産業でも同じデータベースに入力できるように、データを収集しています。このため、他企業のデータとの比較が画面上で簡単に行えるようになっています。比較の際に、平均や中央値も見ることができ、ユーザーはこうしたツールやデータを分析に活用しています。

━━━日本の企業は、CSR報告書の巻頭で特集を組んだりしていますが、そこに入っている情報などは、データベースに反映されるのでしょうか?

エルダーズ氏:

データを表の中に入れ込んでいれば私たちにとっては非常にわかりやすいのですが、企業によっては文章の中にデータを不規則に入れ込んでいることもあります。私たちにとっては、報告書の中にそうした情報があればできる限り拾いますが、情報収集が困難で拾いきれない場合もあります。ブルームバーグとしては、表にデータが入っていた方が情報収集は楽になりますね。

━━━データベースは、産業をまたいでの比較も簡単にできるのでしょうか?

エルダーズ氏:

違う産業の企業との比較をしたい場合にも、画面上の簡単な操作で追加・確認ができます。
たとえば「スクリーニング」の機能では、ブルームバーグのシステムに現在入力されているTOPIX指数全銘柄のデータの中から、ESG開示スコアの高い企業がどの企業かを確認するといったこともできます。
また、同業他社の開示スコアの平均値を確認することができるため、自社がどのレベルにいるのかも確認できますね。たとえば、女性の取締役比率についてベンチマークを設定し、その設定スコアよりも上の企業をリストとして挙げるといったことが可能です。

データベースには、企業にとって否定的なESG関連情報も掲載されています。ひとつはネガティブ情報に関するESGデータ、もうひとつはニュースです。ニュースでは、不祥事に関するニュースを検索することができます。たとえば、人権侵害や環境汚染についてなど、特定の企業にまつわる世界のニュースや情報を確認することができるようになっています。

━━━企業が情報開示をしたくないネガティブな情報の扱いはどうなるでしょうか? たとえば、計画どおりに実行できなかったときに「実施していない」と記載するのと、記載しなのとで、違いはありますか?

エルダーズ氏:

企業が情報開示をしないということにおいては、その項目の情報開示がないという表示になります。その場合には情報開示スコアは低くなりますが、ペナルティがあるわけではありません。ブルームバーグはランキングの会社ではないので、会社が良い企業か悪い企業かということは掲載しないのです。ただ企業が情報開示した部分についてのみ、このデータベースに入れ込んでいくということですね。
企業の情報開示のトレンドについては、データベースがはじき出した開示スコアが掲載されているのみになります。