Column:長時間労働でも、楽しそうならOKなのか?
昔々、鳥取に湖山長者というお金持ちがいました。 長者の田んぼで田植えをする日には、普段からお世話になっている村の人が集まり、楽しそうに田植えをします。長者は家の二階からその様子をにこにこと眺めていました。 田植えはどんど […]
2024年11月27日「ゴミを捨ててはいけません」
何を当たり前のことを、と思われるだろうか。
ではこれが道路でのポイ捨てや産業廃棄物の不法投棄ではなく、レストランで食べ残した料理やアパレルショップで売れ残った服をゴミとして捨てることを禁止する、という意味だとすればどうだろう。
「それは無理」「厳しすぎる」と感じる人も多いのではないだろうか。だが現在のフランスでは、これが法律で定められた「当たり前」だ。
日本でフードロスが社会問題として取り上げられるようになったのは、ここ数年のこと。ゴミとして捨てずに資源として活かすサーキュラーエコノミー(循環経済)という単語を耳にする機会も増えてきた。
フランスは、世界で最もサーキュラーエコノミー実現に積極的な国の一つだ。2016年にまず、スーパーマーケットで売れ残った食品の廃棄が禁じられ1、その基準はレストランにも拡大。さらに2020年に定めた循環経済法2に基づき2022年からは売れ残った衣料品の廃棄が禁止となり、2023年からは20席以上の座席がある飲食店で使い捨て容器の使用が禁止された。
法律の後押しを受け、地球環境を守るために本気で動き出したフランス。その首都であり、ファッションの最先端、美食の都と讃えられてきたパリも、新たな時代・新たな「最先端」に向けて変わろうとしている。
オペラ地区に建つ老舗百貨店は、旅行者に馴染みの観光名所であり、パリの流行最先端を知るうえで欠かせない場所でもある。その一つ、150年以上の歴史を誇り今も世界中の高級ブランドが集まる「PRINTEMPS(プランタン)」旗艦店に、2021年9月、新フロア“7ème Ciel”がオープンした。サステナビリティ(持続可能性)をテーマとするそこは、フランスが目指すサーキュラーエコノミーの一側面であり、同時に社会とともに進化し続けるプランタンを象徴するものでもある。
ウィメンズ館7階は、1865年開業当時最新の建築技術である鉄とガラスの天井が特徴的なフロアだ。1930年代にはファッションショーなどを行うイベントスペースとして利用されていたが、1970年以降はバックオフィスとして利用していた(一部の広告撮影等にも利用)。そこをプランタンは、あえて開業当時の建材や設計を活かした形でリニューアルした。
天井から降り注ぐ陽射しに照らされた1,300㎡のフロアには、様々なリサイクル・アップサイクルの品が並ぶ。まず、銀色のバードが吊るされたエリアPont d’ argent(ポン・ダルジャン)には、著名なバイヤーが選りすぐったヴィンテージ品やラグジュアリーブランドのセカンドハンド。しっかりとクリーニングされた品々は新品と見まごうばかりだが、よく見ると新しさとは別の価値があることに気づく。例えば「セリーヌ」のコーナーでは、ワンピースに過去のコレクションで用いられた際の情報(ショーの写真、年代、デザイナーなど)を記載したタグがつけられており、人気の高いフィービー・ファイロのデザインであることがわかる。
ほかにもエルメスのバーキンや、希少素材であるクロコダイルのバッグなど、今では入手の難しい品が比較的手頃な価格で販売されている。
一方、木製のメビウスのようなオブジェが浮かぶエリアCoupole Bine(t クーポール・ビネ)には、お客様から買い取った品、古着や中古家具やアップサイクル製品などを扱うショップのポップアップストアが並ぶ。こちらは高級ブランドとはまた違う、より親しみやすく個性的なアイテムが豊富に揃っている。
常に新しいものを、高価でもそれに見合う上質なものを販売するイメージが強い百貨店で、なぜあえてセカンドハンドを扱うのか。
それは、社会全体がサーキュラーエコノミーの実現に向かう中で、百貨店もまた新しい消費方法、持続可能な未来へ向けた行動を取り入れていくことが必須だからだ。また一方で、百貨店にはただものを売るだけの場所ではない、幅広い世代・客層に向けて最先端の流行、言い換えれば、社会が向かう先を示す役割もあるのだという、プランタンの強い想いもある。
実際、サーキュラーエコノミー、リサイクル、アップサイクルといった考え方や行動は、若い世代には真新しいものではない。すでに定着しつつあると言えるだろう。だが、より上の世代、特に高齢の中流階級以上の人々にとってはまだ縁遠く、抵抗感が根強く残っているのが実情だ。そしてその層はまさに、高級百貨店のメインターゲットでもある。
プランタンがあえてサステナビリティをテーマとするフロアを開設した理由の一つがそこにある。信頼できる場所で、常に一定のクオリティを保ったセカンドハンドやアップサイクルに触れてもらい、これまで馴染みがなかった層にもそれらを「良いもの」「身近なもの」として定着させること、引いてはお客様や社会の意識・価値観をサーキュラーエコノミーに即したものへと変えていくことを狙っているのだ。
日本の百貨店にも、セカンドハンドの買取をしている店舗はある。だが、買い取った後に自店の中で販売しているところはない(2023年5月現在)。
老舗百貨店のブランド力を活かしてお客様と社会を変えていく、ともにサステナブルな未来を創っていこうとするプランタンの想いと行動に、パリの歴史の一角を担ってきた老舗百貨店の誇りを感じた。
“7ème Ciel”以外にも、プランタンにはサステナビリティに関連する売り場・商品が多い。
まず、店内の至るところで目にする「UNIS VERS LE BEAU RESPONSABLE」というタグ。これは環境に配慮した原材料を使っている、人権侵害のない工場でつくられているなど複数の基準を満たした商品にのみつけらるもので、どの商品がエシカル3なのかをお客様にわかりやすく伝えている「。uni s」は一つになる「、ver s」は方向、さらにユニバース(universe)とも掛けた造語で、販売者(プランタン)もお客様も製造者も、皆で責任を持って良い方向に行こうという意味合いだ。
2022年3月にオープンしたウィメンズ館3階「HORS SAISON」は、オフシーズンを意味する名のとおり、シーズンを過ぎたもの、つまり前のシーズンの商品を扱っている。衣料品はシーズンを過ぎると途端に販売の機会がなくなってしまう。それらを多くの人が購入しやすい価格で販売することで、過剰在庫や廃棄になるのを防ぐのが狙いだ。
デジタル技術を活用した、全く別のアプローチもある。デジタルファッションを自分自身の写真に着せて、オリジナルのイメージを作成できるサービスを開始。SNSでシェアすることも可能で、好評を得ている。このサービスは、奇抜な服装を楽しみたいという欲求と、使用する機会の少ない衣類を増やさないという2つのニーズを同時に叶えてくれる。デジタル時代ならではのファッションの楽しみ方だ。
様々な形で進化するプランタンが提案するファッションやライフスタイルは、これからも「パリの最先端」であり続けるだろう。
オペラ地区オスマン通りに建つもう一つの老舗百貨店「Galeries Lafayette(ギャラリー・ラファイエット)」にも、サーキュラーエコノミーを支えるフロア“RESTORE”がある。
既に10年以上サステナビリティ実現への取り組みを進めているギャラリー・ラファイエットでは、2019年から「GO FOR GOOD」という「責任あるファッション」を実現する活動をスタート。パートナーとの連携を前提に、デザイナーや生産者と協力して環境保護や社会貢献に資する商品をつくりだし、お客様に提案することで、サステナブルなライフスタイルを広く社会に浸透させていこうとしている。その活動の一環として2021年にパリ本店4階の一角に、3つのRe(リニューアル、リセール、リサイクル)をコンセプトとする売り場“RESTORE”をオープンした。「GO FOR GOOD」ラベルがついた商品を中心に、セカンドハンド専門店のショップインや若手デザイナーの製品を集めたコーナーを展開している。
“RESTORE”にはアップサイクルのユニークな商品が充実しており、例えばレトロな雰囲気のキャンドルは、大豆でつくった蝋をパリの一般家庭から出た不用品の食器や小物に流し込んだもの。さらに、デッドストックとなっていたカーテン生地でつくったポーチやポシェット、有名ブランドのボタンでつくったピアスやネックレスなど、どれも一見してリサイクル・アップサイクルとはわからないお洒落なアイテムばかりだ。
ギャラリー・ラファイエットは2024年までに、「GO FOR GOOD」商品を取り扱い商品全体の25%に増やすことを目標とし、そうして目指す到達点を『「責任あるファッション」のショーケース』と表現している。“RESTORE”はそこに至るためのステップの一つだ。ファッションを生み出す生産者と、商品を買うお客様。それぞれの暮らしや意識や行動を、商品とお客様を結ぶ存在である百貨店が起点となって変えていく。そのためにまず自分たち自身を新しい時代の百貨店へと生まれ変わらせていく。
たくさんのパートナーの手を引きながら、一つずつ着実に取り組みを進めていくギャラリー・ラファイエットは、ファッションを通してパリの、フランスの、地球の未来を見据えている。
“RESTORE”では、環境配慮や社会貢献に積極的な若手デザイナーの製品を多く扱っている。その中で特に注目を集めるブランドを紹介しよう。
・サリューボーテ
2019年に女性デザイナー2人が創設したブランド。ファッション業界による環境汚染を回避する方法として、アップサイクルに力を入れている。製造会社や保管倉庫などでデッドストックとなっている生地を収集して原材料として活用。特にラグジュアリーブランドのコレクションに使われる生地のデッドストックを利用した限定アイテムは、発表後すぐに完売するほどの人気。
・RESAP
2019年に誕生したパリを拠点とするアップサイクリングハウス。主にデニム素材を中心としたパッチワークを活かしたデザインが特徴。服を回収する仕分けセンターから購入した服を原料として、分解・再構築する。リサイクルやリメイクをより身近に感じてもらうため、デニムのリサイクルキットも販売。
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