つくる人と飲む人、すべての人生を豊かにするために
Contents1 コーヒーを知ることは生産者を知ることから始まる2 生産者と消費者全ての人生をより“豊か”にすることが目標3 飲む人の課題、1杯1,000円のコーヒーは高すぎる?4 つくる国の課題5 生産国を知り、伝え […]
2024年12月27日Contents
東京、北千住に現役大学生が運営し、東ティモールというインドネシア東部にある小さな国のコーヒーを、集落単位で豆を分けて提供する店があります。店名はLUSH-COFFEE(ラッシュコーヒー)。LUSHとは「豊潤な」という意味。
なぜ、東ティモールのコーヒーなのでしょうか? そこには、今の世界が抱える大きな課題と、現代社会の矛盾のひとつがあります。
そして、気づいた一人の若者の行動から生まれる微かな兆し。それは、良い未来のための、小さな一歩になるかもしれません。
東ティモール民主共和国
(ひがしティモールみんしゅきょうわこく)
東南アジアに位置する共和制国家。首都はディリ。小スンダ列島にあるティモール島の東半分と周辺の島々により構成される島国で、南方にはオーストラリアがある。1999年にインドネシア領から国連主導の住民投票で独立した21世紀最初の独立国。ポルトガル語諸国共同体加盟国。
LUSH-COFEE代表、吉田光佑氏がこの事業に取り組むきっかけは、高校3年生の時。小学校の頃からコーヒーが好きで、自分で淹れていたという吉田さんは、その後、コーヒーに関する勉強や取り組みを始め、高校3年生の時にコーヒー豆の産地である東ティモールへの渡航を決めました。
「行ってみてまず、現地の方たちがつくっているコーヒーにものすごく感動しました。何よりも、彼ら自身が誇りを持っていることが、その目の輝きからわかって。当時僕は高校3年生で、ふらっと渡航した程度だったのに、農園の人たち、コミュニティーのリーダーの方たちが自分がつくった豆を持ってきて、“お前、これを見てくれ”と、ただの学生に対して、すごく熱心に話してくれる。現地の言葉なので正直何をいっているかはわからないのですが、“自分たちがどれだけ努力をしているのか”“ 実際にどれくらいのクオリティーのものができるのか”を、熱心に伝えようとしてくれている。そして、最後にはそれを飲ませてくれる。その時の彼らの熱意や、誇らしそうな顔だったり、エピソードとしても“俺はこれで子どもたちを大学に行かせてるんだ”というお話に触れているうちに、本当の豊かさって何だろう?と考えさせられたのがはじまりでしょうか」
LUSH-COFFEE 代表 吉田光佑
CQI認定 Licensed Q Arabica/Robusuta Grader
高校3年次に東ティモールへ渡航。農村部を回り生産者の持つコーヒーづくりへの誇りに感銘を受ける。
大学1年次には働き手として、同国へ再度渡航。農村部にて現地の人々とともにコーヒーのクオリティコントロールに従事する。帰国後、彼らのプライドといえるコーヒーを消費者に伝える架け橋となるべく、大学3年次に「LUSH-COFFEE Roaster and Laboratory 」を開業する。
2022年にLicensed Q Arabica/Robusta Graderの取得し、国内最年少のWグレーダーとなる。
私たちが普段何気なく飲んでいるコーヒーですが、裏側にはいくつかの課題もあります。私たち消費国側でいえば、コーヒーに対して非常に多くの労力をかけてつくっている生産者がいるにもかかわらず、まだまだコーヒーに関する価値観が向上しきれていない、正当な対価が支払われているとはいえない状況が、そのひとつ。コーヒーだけではありませんが、生産者の賃金の低さは世界的な課題となっているのです。
「2018年頃でしょうか、少し高価なスペシャルティコーヒーの売上が伸びていたのですが、それでも1杯に対して1,000円、いえ、800円くらいでも抵抗がある方たちがまだまだ多かったと思います。ですが、コーヒーづくりにかけられた手間暇、遠い国から運んでくるコスト、さらには、焙煎する人、お店で提供する人など多くの人の手を通っていることを考えると、決して高いとはいえないはずです。その1杯に対しての価値観がより公平なものになれば、もっと彼らの労力に見合った対価をコーヒーに付け、それを買っていただいてという持続可能なお金の流れができるはずです。そこが大きな課題にも感じましたし、逆に将来的に解決した後の理想図が見えていたので、アプローチの方向性は明確でした」
課題を感じた吉田さんはすぐに行動に移ります。大学にコーヒーのサークルをつくり、生産者の話やさまざまな情報を発信しつつ、コーヒーの正しい知識、コーヒーに対してどういう人たちが関わっているのかを広める活動を始めたのです。さらに自分自身はもう一度東ティモールに渡航し、今度は一緒に働く者、つくる者として1カ月ほど過ごすことで、生産国側の現実的な課題を知りました。
「彼ら自身の問題でなく、土地自体の問題として、老木化がありました。一つひとつの収量の少なさだったり、物理的な話ですが、木を高くしすぎたために、豆を採る際に木を少し傷めてしまったり。あとは、地球温暖化の影響も確実に受けていて、雨季が延びてきていることで乾燥のクオリティーが下がってしまったり、そもそも雨の影響で収量がまたさらに少なくなる懸念があります。もうひとつは、彼ら自身のクオリティーコントロールの難しさです。気質的に穏やか過ぎるところがあり、どうしてもムラがでてしまう。私自身の渡航が、技術指導をされているNGOさんのインターンシップで、彼らがしっかり自分たちでクオリティーをコントロールできるようにするための支援に一緒に入り、最初は知識や技術を付けるような活動を行い、さらに彼らのモチベーションを上げるような語りかけをしていました。もちろん、彼らにも独自に今まで培ってきた知識であったり、受け継いできたものがあるので、それらと新しい技術、知識をうまく織り合わせていくところが難しかったですね」
最も大切なのは、日本をはじめとする消費国が真の価値を理解し、公平な取引が行われることだと考えた吉田さんは、在学中に日本でコーヒービジネスを立ち上げました。
「東ティモールのコーヒーが彼らの誇りとしてつくられ、それを知らせた上で売るというのが大事です。それはビジネスという形でこそ、来年も再来年も持続的に続けていくことが可能になると考えました。豆を売るだけでなく、コーヒーを提供する実店舗の形でオープンしたのも、オンラインショップのみではやっぱり面と向かって話す機会がないから。実店舗だからこそできる東ティモールの広げ方、お客様とのコミュニケーションの取り方があると信じています」
2020年11月スタートしたLUSH-COFFEE。待っていたのはコロナ禍の逆境でした。そんな時、支えてくれたのは、地域の住民。ふるさとの人々でした。
「店のある北千住は生まれ育った土地です。もともと東ティモールとの架け橋というテーマとあわせて、この土地自体も盛り上げたいというところもありました。もちろん、コロナ禍当初は難しかったのですが、近所の方が一服に使ってくれたり、サラリーマンの方がテイクアウトで利用してくださるシーンが徐々に広がるのと同時に、私自身がうれしかったのは、東ティモールが知られてきているというところ。最初は店の外に国旗を掲げていると、「どこの国なんだろう」だとか「そもそもこれアフリカじゃないの」といった声が聞こえてきましたが、最近は常連の方々が東ティモールの集落名を挙げて、「ここの集落のコーヒーちょうだい」ということもあるほどです。まさか北千住で東ティモールの集落名を聞くとは思わないですよね。徐々にですが認知度が上がり始めていると思います」
なぜ、東ティモール? という答えはわかりましたが、なぜ、集落ごとなのでしょう?
それは吉田さん自身が実際に見てきた集落であり、そこにいる人たちの豆であり、一つひとつに彼らの個性や誇りが表現されているから。だからこそ細かい集落単位で出していきたいと考えたのです。
「今、シングルオリジンが流行っていることもあり、細かい単位で売られてはいるのですが、実際にはその集落の中にもさらに細かいコミュニティーがあり、つくる人たちが人がいる、そういった人たちにも焦点を当てたい。国内ではコンペティションが開かれるほど、しっかりとした個性もあるので、あとは私が焙煎などでうまくそこを表現していくということでしょうか」
今春大学を卒業し、就職後は2足の草鞋でこのビジネスに取り組むという吉田さんには、まだまだ、コーヒーを通じて伝えたいこと、目指したいものがたくさんあります。
「東ティモールでいえば、取引する集落やエリアの規模拡大をしていきたい。それと、もっと多くの人に知ってもらうための情報発信の強化や、店舗の拡大ですね。少しでも多くの方に東ティモールのコーヒーを知っていただきたい。コーヒー自体がおいしく魅力的なので、飲む人は幸せになれるし、日本で消費してもらえたら、つくる人たちももっと幸せになれる。もうひとつは、スペシャルティコーヒーやそれ以外のコーヒーの知識をどんどん広めていきたいなと考えており、スクールやラボなども展開したい。一応ここはRoaster and Laboratoryなので、研究というほどではないですが、カッピングなどを通してコーヒーの知識を広めていきたいです」
つくる人を知ることで、飲む人の幸せが増えていく。そんな未来への架け橋のひとつは東ティモールにつながっている。
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