日比野克彦 ひとり橋の上に立ってから、だれかと舟で繰り出すまで

TeXT 2025年9月22日

水戸芸術館 現代美術ギャラリー
2025年7月19日(土)ー10月5日(日)


60 年以上の活動の変遷を辿る、今までにない展覧会

日本の現代アートの第一人者であり、第11代東京藝術大学長を務める日比野克彦氏の、幼少期から現在へ至る活動の変遷を辿る展覧会が、水戸芸術館で開催されている。

1980年代前半にダンボールを素材にした作品で注目され、2000年代以降は多くのアートプロジェクトを展開し、アートを地域や行政、企業などの社会と結びつけてきた日比野氏の活動を、170点以上の作品や、生誕から現在までの年譜などを通して多角的に知ることができる。

本展覧会では、新潟県十日町市莇平での「明後日朝顔プロジェクト」や岐阜県長良川の「こよみのよぶね」など地域とともに取り組むアートプロジェクトといった必ずしも形や物として残らない活動についても、日比野氏の振る舞いや関係者の言葉を掘り下げ、また関係者へのインタビューをもとに制作した絵本や漫画などを通して、展覧会の中で表現するという今までにない挑戦をしている。


日比野 克彦

1958年岐阜市生まれ。1984年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程デザイン専攻修了。大学院在学中にダンボールを素材に制作した作品で注目を集め、1982年日本グラフィック展大賞受賞。国内外で多数の展覧会に出品するほか、舞台美術や芸術祭のプロデュースなど多岐にわたる分野で活動。近年は地域の参加者と地域の特性や関係性、人びとの個性を活かしたアートプロジェクトを数多く行う。

現在、東京藝術大学長、岐阜県美術館館長、熊本市現代美術館館長、日本サッカー協会参与。


拡張する芸術実践の先にあるもの

日比野氏は自身の作品やプロジェクトを振り返り、「ものは必ず朽ちていく、つくり終わったら安定して何も朽ちない、変わらないということはない。それをゼロに戻してまたつくり始める、輪廻・回転していく。そういう時間の経過を受け入れるのが『持続性』であり、自分の作風とつながる部分があると思います」と語る。

さらに今後の構想を尋ねると、年譜の最後に書かれていた『文化的処方』の文字を示してくれた。

「この『文化的処方』というのは、アート活動と医療、福祉、テクノロジーを組み合わせてその人がその人らしくいられるレジリエントな場所や体験を創り出そうというものです。これにより個人の活動意欲や幸福感の増進、健康状態の回復などを図るとともに、社会の寛容性や包摂性の向上にも効果を与えようとしています。震災の後、ガスや水道や電気があっても孤独の中で亡くなってしまった人がいたように、コミュニティや文化は息を吸うのと同じくらいに必要なこと。ライフラインとしてのアートというものは絶対にあります。近年、世界で増えつつある紛争についても、互いの違いを受け入れ合える文化というものがないとなくならないわけです。紛争をなくし平和を実現するための文化・芸術というものも必要になる。だから、文化・芸術を経済や医療、福祉のベースとして位置付けていかなければならないと考えています」

60年にわたる活動を多角的に振り返りながら、社会のベースとして文化・芸術が果たす役割の大きさを垣間見る、そしてこの先の日比野氏の活動へのさらなる期待が募る。そんな本展覧会に、ぜひ足を運んで欲しい。

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