フランスで進むサーキュラーエコノミー(1/2)

TeXT 2024年11月29日

サーキュラーエコノミー(循環経済)とは何か。

ゴミを捨てない、リサイクルを増やす、再生可能エネルギーを導入する。そんな近年よくいわれる取り組みが思い浮かぶ。日本でももう十年以上は続けられている3R(リデュース、リユース、リサイクル)に代表される、定番の「環境にやさしい」社会づくりというやつだ。それらは確かにサーキュラーエコノミーの要素ではあるが、全てとは言い難い。

サーキュラーエコノミーとは、さらに一歩踏み込んで最初に投入される資源量を抑えつつ、既にあるものをうまく利用してより高い付加価値を生み出す経済システムを意味する。

英国のエレン・マッカーサー財団が提唱する三原則は以下の通り。

•廃棄や汚染を出さない

(Eliminate waste and pollution)

•製品と素材を循環させる

(Circulate products and materials)

•自然を再生させる

(Regenerate nature)

大量生産・大量消費・大量廃棄を前提に発展する従来のリニアエコノミー(線型経済)に代わるシステムとして、今、世界各国でサーキュラーエコノミーへの移行が進んでいる。中でも特に動きが早く、法律やマーケットの整備に力を入れているのがフランスだ。

都市、田舎、あるいは海。フランスのさまざまな場所で実践されるサーキュラーエコノミーを取材した。

Mob-ion(モブ・イオン)

https://www.mob-ion.fr


(写真左から)Christian BRUERE(クリスチャン・ブリュエール) 代表取締役 Christophe TURCRY( クリストフ・チュルクリ) 経営管理・財務担当ディレクター Sébastien DEPREZ(セバスチャン・デプレッツ) 営業開発担当

分解・修理しやすい設計と高品質で丈夫な部品でつくられた、サブスクの電動バイク

ガソリン車から電動車へ。世界中で進むモビリティの脱化石燃料の潮流において、欧州は常に先頭に立ってきた。ドイツとイギリス※1では2035年までにガソリン車の販売禁止を目指し、フランスでも2040年までに中古車も含めて全てのガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止することを、目標に掲げている。実際、パリやその他の欧州の都市では、電動自動車や電動バイクを見かける機会が着実に増えてきた。

だが、「環境に良い新しい車・バイクに、どんどん乗り換えよう」と言われると、どこか旧来の大量生産・大量消費の残り香を感じてしまう。古いものを捨てて新しいものへではなく、良いものを使い続けるという観点もまた、サーキュラーエコノミーの重要な要素であるはず。使い続ける、という観点に立つ時に欠かせないのが、整備と修理だ。この点を突き詰めて、よりサーキュラーエコノミーに合致したモビリティを提供できるビジネスモデルをつくりあげたのが、フランス北部の街Saint-Quentin(サン・カンタン)に拠点を置く電動

バイクメーカーMob-ion(モブ・イオン)だ。

※1 イギリスは当初2030年を禁止目標としていたが、2023年9月に目標年を2035年に延期した

修理を前提とする設計

モブ・イオンがつくるのは、修理しやすさを追求した電動バイク。それを販売するのではなく、サブスクリプションの形で企業や個人へリースすることで、廃棄を極限まで減らしている。

多くの部品を組み合わせる製品、つまりは車やバイクの場合、部品それぞれの耐久性・耐用年数が異なる。その中で材質的に脆いものや、消耗の激しい箇所から先に壊れていくわけだが、単純に考えれば、壊れたところを取り替えさえすればまだ使い続けられる。しかし、複雑な機構を分解して壊れた箇所を特定し、小さな部品を交換するには、時間も費用もテクニックも必要になり、結果、割高感が強まるというのが、これまでの“修理”に対する感覚だった。

モブ・イオンを立ち上げた代表取締役のクリスチャン・ブリュエールさんは、次のように語る。

「私たちの電動バイクは、#PérennitéProgramméeという考え方に基づいてつくられています。これは、製品を最初から分解・修理する前提で設計していくもので、修理コストを抑えながら長く使うことを目指しています。さらに、製品を販売するのではなく長期リースするシステムにして、私たちの手で確実に定期メンテナンスや消耗部品の交換ができるようにしました」

製品全体の寿命ではなく、部品一つひとつの寿命を見ていくやり方は、モビリティ以外の業界では珍しくない。ただ、車やバイクに適応するには、その機構があまりに複雑で部品数も多いため難しいとされてきた。この一般論を、モブ・イオンは分解・修理しやすい設計での製造、定期的にメンテナンスできるシステムによる運営を“前提”とすることで覆した。

モブ・イオンは、このユニークなビジネスモデルが評価され、第16回SALON Produrable※2で表彰を受けている。

※2 フランスでCSR(企業の社会的責任)やサステナビリティ(持続可能性)を浸透させるべく設立された組織が開催する展示会。

高価で長持ちする部品を使うための、リースという選択

モブ・イオンが発足したのは2016年のこと。以来、700ほどあるバイクの全部品を確認し、部品の組み立て構造の見直し、部品ごとの耐用年数の見極めを進めてきた。そこで改めてバイク自体の寿命と、部品の寿命が異なることを確認。さらにモブ・イオンは、品質の高い部品を選定することにも力を入れた。ただし、品質の高い部品は長持ちするが、当然、価格も上がってしまう。ここでリース契約というシステムの利点が生きてくる。販売ではなく自社の持ち物として長く使い続ける形にすることで、部品に投資したコストを回収できるのだ。サーキュラーエコノミーの実践には、短期的な利益や利便性を追求するのではなく、長期的な視点をもって「最終的に得られるものは何か、最終的に利益が高いのはどの選択肢か」を見極めることが重要となる。

さらに、経営管理を担当するクリストフ・チュルクリさんは、部品を使い続ける重要性として、もう一つの視点を示してくれた。

「部品は銅やニッケル、アルミニウムなどの金属でできていますが、これらの天然資源は今後、継続的に価格が上がっていく可能性が非常に高いのです。実際、既に銅の価格は世界的に上昇しています。また、金属の原料となる鉱石の採掘には化石燃料が使われていますし、そもそも鉱石のほとんどがフランス国外からの輸入品です。資源保護、コスト対策、脱炭素、貿易収支。さまざまな観点から、部品という資源を長く使い続けることは私たちの未来にとって重要です」


製造中の電動バイクを前に、こだわりの部品について語ってくれるクリスチャンさん。
毎日のちょっとした移動から始まるサーキュラーエコノミー

モブ・イオンのバイクは、すべてサン・カンタンの工場で製造されている。部品づくりから組み立て、溶接、ペンキ塗装までの工程をコンパクトに集約した工場は、外光をうまく取り入れる構造となっており、意外に明るい。元々は宗教施設だったのが金属加工工場になり、その後、モブ・イオンのバイク工場になったという、なかなかにユニークな来歴を持つ建物だ。現在は20名ほどの従業員がここで働いている。

営業開発担当のセバスチャン・デプレッツさんは、工場の中で新しく開発した軽量タイプのバッテリーを手に言った。

「製品を設計し良いものをつくりあげても、それをどう利用してもらうかを考えなければ、経済システムとして成立させられません。私たちはバイクの開発・製造からリース契約、修理などすべての工程をトータルで担っている。だからこそ、この事業モデルを実現できました」

重いバッテリーは電動バイクの利便性を考える際に、大きな課題となっていた点だ。新たに開発し、修理やメンテナンスの際にバッテリーだけを入れ替えてまたリースする、余計な廃棄物を出さずに改良できるのは、まさにモブ・イオンの事業モデルならではといえる。

モブ・イオンの出発点は宅配サービスだったが、現在のメインターゲットはもっとバイクの使用頻度の少ない、日常の買い物や通勤といった短距離移動のためにバイクに乗る人々だという。

「移動距離が少ないお客様には、その分だけリース料金を割安にしているんです。そうしてお得に、かつ環境にもやさしい生活を送るために、私たちのバイクが貢献できると嬉しいですね」とクリスチャンさん。 都市の道路の上から、サーキュラーエコノミーは今も進み続けている。


工場の外に設置されたソーラーパネル。ソーラー発電で得た電力を貯める蓄電池として、性能が落ちてきた電動バイクのバッテリーを再利用している。

Procédés Chènel(プロセデ・シェネル)

https://chenel.com


化粧品会社の装飾に使われていた紙の花。

華やかな装飾と環境負荷、2つのニーズを叶える紙の可能性

再生可能な空間装飾

大規模な展示会イベントの会場、デパートやショップのショーウィンドウなど、人の目と興味を惹きつける華やかな装飾が求められる場面は多い。イベントを成功させるため、展示内容をより良く見せるため、あるいは主催者やブランドのメッセージを伝えるためなど、装飾の目的は多様だが、共通するのは資材が必要であること、そして一定の期間が過ぎれば撤去されるものである、という点だ。実際、大きなイベントの後に出る廃棄物の量は驚くほどに多く、だからこそリアルイベントは今の時代にはそぐわないと意見する人もいる。

では、装飾はすべて無駄なもの、環境負荷の高いものとしてなくしてしまえばいいのか。だが、そのような極端な方向転換は経済効率を下げてしまう。よりはっきりと言えば、現実的ではない。

ならば、どうすべきか。そこでフランスの老舗施工会社であるProcédés Chènel(プロセデシェネル)が提案し、実践するのは、資源を使い切り無駄を極小まで減らしながら、デザイン性・安全性も確保するという道だ。

プロセデシェネルは創業128年の老舗企業だ。フランスで最も歴史の長い展示会で、今年120周年を迎えたFOIRE DE PARISにも第1回から関わっている。1851年にロンドンで開催された第1回万博にも参加していた。現在主に扱う素材は紙。不燃の紙素材を開発し、それを用いた装飾のプロフェッショナルとして活躍しており、装飾や建築に携わるデザイナーとともに、天井や照明、可動壁システムの提案などを行っている。デザイナーのアイデアを実現するために、どのように素材を生かすべきかを考える裏方の位置付けだが、だからこそ、素材を効率的に使い切り、また再生させるシステムを構築することができる。

時代が求める解決策を世界へ伝える

3代目社長を務めるソフィ・シェネルさんは、自分たちがサーキュラーエコノミーに取り組むのは当たり前のことだと言う。

「環境負荷やリサイクルについて私たちが取り組み始めたのは1970年代、父が社長だった時代からです。ですから私が社長を継いだ時も、当たり前の取り組みとして資源をどう活かすかを考え続けました。その答えのひとつがドロップケーキです」

使用済みの紙を原料として装飾素材に生まれ変わらせたドロップぺ―パー(再生ポリエチレン+セルロース+グラスファイバー)を、さらに使い続けるためにポリエチレンで固めた新しいパネル素材が、ドロップケーキだ。

軽くて頑丈なうえ防火性もあるので、家具や照明などにも使える。壊れても再び砕いて固めればまたドロップケーキになるので、ほぼ無限にリサイクルできる。

ドロップケーキ以外にも、プロセデシェネルは「環境負荷は減らしたいが、華やかな装飾を施したい」と考えるハイブランドや大手企業、美術館・博物館などに協力し、相反する要求をバランスよく叶える解決策を提案している。

「環境負荷を減らしたいというニーズは、年々増していると感じます。耐火性を考慮すると100%リサイクル可能な素材だけを使うのは難しいのですが、麻を用いた新たな素材やドロップケーキなどで、ニーズに応えていきたいです。私たちは常にダイナミックに、より多くのエコな素材をつくっていきたいと思っています。そして、私たちが持つノウハウを世界に伝えていきたい。地域や企業によって、環境に対する意識が大きく異なることを実感しているので、環境配慮が十分でない企業に積極的に働きかけていけば、資源を無駄なく循環させられる余地はまだたくさんあります」とソフィさん。

環境保護とは相反する位置にあると思われがちな展示・装飾の世界でも、サーキュラーエコノミーはしっかりと実践されている。


プロセデシェネルのオフィスは、工房(アトリエ)を併設している。大きな紙をカットできる設備を備えており、さまざまな装飾を生み出している。
デザイナーが訪れて、協力して試作品をつくることもある。

デザイン系の学校の研修で来ている学生たち。

ショールームでは、定期的にプロセデシェネルの素材を用いた作品の展示が行われている。取材時には、紙と糊を混合した素材を用いた作品群が展示されていた。

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