SDGsにも盛り込まれるなど、改めて栄養課題改善に注目が集まる中、タニタを取材。ユニークな事業で、ブランド力を向上しながら、事業を拡大した同社。タニタのトータルな健康サービスは、医療費の適正化が喫緊の課題である自治体からも、高い関心を集めています。(2016/11/29更新)(SUSTAINABLE BRANDS掲載記事)
不足と過多が混在する、世界の栄養課題。かつては先進国に限られていた肥満問題も、開発途上国にまで拡大している。持続可能な開発目標(SDGs)にも栄養課題改善が盛り込まれ、各国や企業が、様々な施策を講じている。そうした中、社員食堂を起点とする事業で一大ムーブメントを起こしたタニタの軌跡について見てみたい。現在、タニタは、よりトータルな健康サービスへと事業を拡大し、今やメーカーの域を超えた、健康総合企業となっている。
タニタが初めてヘルスメーター(体重計)を製造したのは1959年。東京タワーが竣工し、東京オリンピックが開催された時代だ。当時のヘルスメーターは、銭湯や学校にあるもので、家庭で体重をはかる習慣はなかった。高度経済成長期を迎え、人々の暮らしが少しずつ豊かになり、一般家庭にも浴室がつくようになるのとともに、ヘルスメーターも普及していった。1978年、タニタは、日本初のデジタルヘルスメーターを開発する。それを皮切りに、体脂肪計、体組成計をはじめ、さまざまな世界初・日本初の商品を世の中に送り出し、健康意識向上の一翼を担ってきた。1992年には世界初の乗るだけで計測できる体脂肪計を開発し、その後、家庭用の体脂肪計を商品化。これが爆発的なヒットとなり、日本に「体脂肪をはかる」という文化を定着させた。また人々の生活様式が欧米化するのに合わせて、デザインも変遷する。浴室ではなく、寝室やリビングにも合うデザイン、邪魔にならないサイズ、薄型へと進化してきた。現在、家庭用体脂肪計・体組成計の国内シェアはNo.1だ。
そんなタニタを一躍有名にしたのは、社員食堂だった。事業柄、社員の健康増進は大きな意味合いを持つ。健康計測機器を扱う企業として、まずは従業員が健康になろう、また従業員の健康が企業発展の基本であるという考えから、社員食堂で、栄養バランスのとれた定食の提供を始めたのだ。いくらヘルシーでも、ボリュームがなかったり、美味しくなかったりというメニューでは、続かない。タニタの定食は、主菜、副菜2品、汁物、米飯の全5品という構成。これで約500キロカロリー、塩分はわずか3グラム以下。スパイスやハーブ、出汁で、味にアクセントや深みをもたせ、自然と咀嚼回数が増えるよう野菜は大き目にカット。試行錯誤の末、食べごたえも満足感もあるヘルシーメニューを実現した。
この社員食堂で提供しているメニューをレシピ本として出版したところ、シリーズ累計で542万部のベストセラーとなる。さらに、社員食堂のメニューを忠実に再現した食事を提供する、一般向けのタニタ食堂をオープンした。1号店を開いたのは、観光地や繁華街ではなく、日本屈指のオフィス街、丸の内。タニタの定食は、日常的に食べてこそ効果が期待できるものなので、近隣で働くビジネスパーソンをターゲットとし、食堂利用者には、無料で、最新の機器による体組成の計測と、管理栄養士による食事や運動のアドバイスも提供している。ヘルシーなメニューとユニークなサービスが大きな反響を呼ぶこととなり、タニタ=健康に良い、というイメージが人々に浸透。ブランド力が向上し、健康計測機器分野においても、競争力が強化されるなど、好循環を生んでいる。
タニタの社員食堂や、タニタ食堂で提供しているメニュー例。「アスパラと豚肉のオイスターソース炒め定食」「ささみのピカタ定食」
現在、タニタがもっとも力を入れているのが、通信機能を備えた健康計測機器の活用による、よりトータルな健康増進サービスだ。どんなに高性能な機器でも、計測するだけでは、行動変容につながりにくい。「タニタ健康プログラム」では、日々の消費カロリーをはかる活動量計、体組成計、血圧計の計測結果を、インターネットを介して専用サーバに転送・蓄積する。体の状態やその変化を見える化し、各人がPCやスマートフォンで確認できるほか、そのデータを基に、専門家が健康指導を行う。これも、もともとはタニタ社内で従業員向けに展開していたものだ。プログラム導入前と比較して、従業員の年間医療費は、約9%削減。適正体重者(BMI 18.5〜25未満)の比率は5%アップしたという。この仕組みを、ニーズに合わせてカスタマイズできる形でパッケージ化し、企業や団体、自治体に向けて2014年度より展開。延べ100件以上の導入実績がある。
家庭向けにも、スマートフォンと連携し、計測データを管理できる商品を展開。インナースキャンデュアル「RD-800」は、家庭用では世界初、部位ごとの「筋質」を評価する新機能を搭載。専用のアプリで、計測結果やその変化をデータやグラフで閲覧できる
このプログラムに、最近、特に高い関心を寄せているのが、自治体だ。WHOによる世界保健統計2016年版によると、日本は世界一の長寿国であり、平均寿命は83.7歳だ。ただ健康寿命は、それより10歳ほど低いという。国民医療費は、8年連続で過去最高を更新しており、増え続ける医療費が、財政を圧迫する事態となっている。タニタの事業は、住民の生活習慣病のリスクを下げ、健康増進につながる仕組みとして、期待を集めている。
今のところ、同プログラムの効果について、数字として見えているのは、主に医療費の適正化と適正体重者の比率改善だ。企業における従業員の健康増進による生産性向上、経営への効果測定は、タニタでも模索しているところだという。これが実現すれば、福利厚生の域を超えて、費用対効果の高い投資として、企業からもよりいっそう注目を集めることになるだろう。
当記事は、SUSTAINABLE BRANDS掲載記事です。SUSTAINABLE BRANDS オリジナル記事(英文)はこちらをご覧ください
How Tanita Is Using Measurement Expertise to Change Human Eating Habits