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海上輸送用貨物船で日本沿岸の海水データを収集
海洋研究の発展に貢献

異常気象や自然災害が、世界各地で発生している昨今。気候変動への対策は、国家・企業の枠を越えた重要な課題となっています。気象の研究には地球表面の7割を覆う海洋の研究が欠かせません。日々、日本各地で船舶を運航する日本通運は、海洋環境研究活動を行っているNPO法人ヴォース・ニッポンの依頼を受け、国内貨物の海上輸送用船舶に海水データを収集する装置を搭載しました。(2017/11/24更新)(SUSTAINABLE BRANDS掲載記事

国内最大手の総合物流企業である日本通運は、日夜、さまざまな貨物を運んでいる。日本中に張り巡らせた物流網。そこには、海をゆく貨物船も含まれる。低コストで大量の貨物を長距離輸送できる海上輸送は、トラック輸送に比べてCO2排出量が少なく、環境にやさしい。荷傷みも抑えられ安全性も高いことから、日本通運では積極的に海上輸送へのモーダルシフトを進めてきた。

この海上輸送を活かして、海洋研究に欠かせないデータ収集を行う取り組みが、新しい貨物船「ひまわり8」の就航とともにスタートした。

日本通運の貨物船(イメージ)

 定期運航だからできる、同じ地域での長期的な海水データ収集


海洋研究は「変化」を捉えることが重要だ。水の流れがどう変わるのか、変わったことで何が起きるのかを正確に知ることが、研究の出発点となる。その基本が海水データだ。環境調査のベースとして、世界各地の海で水温や塩分が計測されている。しかし、日本沿岸では調査費用等の問題から定期調査の実施が難しく、データは不足しがちだった。これでは、地球環境のモデリングや海流のシミュレーションの精度が上がらない。海洋環境分野で活動するNPO法人ヴォース・ニッポンは、このデータ不足を、定期的に同じ航路を運航する民間船舶に協力してもらうことで乗り越えようと考えた。

日本通運は、1964年に東京〜室蘭間でのコンテナ船運航を開始、現在は共同運航船を含めて7隻の新鋭大型船を擁し、日本各地の8港を結んでいる。点検や整備の日を除けば、ほぼ毎日船舶を運航しており、海水データ収集にはうってつけだった。

ヴォース・ニッポンからの協力依頼を受けた日本通運は、検討・調整ののち、建造中だった「ひまわり8」への海洋表層モニタリング装置搭載を決定した。



(写真上)海洋表層モニタリング装置(イメージ)

(写真左)新造RORO船「ひまわり8」の進水式
トレーラ約177台、乗用車約95台を搭載可能。電子制御式低速ディーゼル主機関など、省エネルギー対応設備を備えている。RORO船とはROLL-ON/ROLL-OFF型船舶の略。車両が自力で乗船・下船できる貨物専用船。

 活用の幅が広い海洋研究の成果。長期気象予報から周辺地域の環境保護、水産分野の発展まで


海水データ収集は、主には海洋研究の発展という学術目的のために行われるが、その研究成果は多方面へ活用される。

沿岸漁業での日々の漁場確認や、急な赤潮発生の原因特定、干潟の保全やバードサンクチュアリの設置など沿岸地域の環境活動、さらには効率的な航路選択システムの開発にも役立つ。

海洋表層モニタリング装置は自動で稼動するため、乗組員への作業負担はほとんどない。とはいえ、船舶の中に事業と関わりのないものを載せることには違いなく、搭載に難色を示す企業・組織は多かった。

日本通運は、「海という公共の場を使って事業活動を行う企業として、海の環境保全や海洋資源の保護に貢献することは重要な社会的責任」という考えから、装置搭載を受け入れた。加えて、航路選択システムの効率性向上への期待もあった。航路選択システムは既に船舶の運航で一般的に使われているものだが、その効率性が向上すれば、燃料の節約や運航時間の正確性向上といった形で、日本通運にとっても有益となる。海洋研究への協力は、少ない負担で地球や社会への恩返しと未来の事業への投資ができる機会と捉えられるのだ。

「ひまわり8」が収集する海水データは、まずは水温と塩分だけだが、今後、phの測定も追加される予定だ。さらに研究機関からは、プランクトンなど生物系の調査も可能な装置を稼動させてほしいという要望も出ている。
定期航路を活用したデータ収集には、まだ多くの可能性がある。日本通運の取り組みのように、国や研究機関だけでは難しい調査活動に、企業が事業活動を通して協力していけば、気候変動への対策をはじめとする地球環境保全がより一層進むと期待できる。