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フェアトレードのコンセプトを地域社会でも展開
日本のフェアトレードタウン運動

欧米とは異なるアプローチで広がる、日本のフェアトレードタウン運動。最大の違いは、認定基準に「地域活性への貢献」を設けている点です。これは、日本国内でも格差が拡大する中で、途上国だけではなく地域社会においてもフェアな社会・経済を築いていこう、とするものです。日本、そして名古屋のユニークなタウン運動について、フェアトレード名古屋ネットワーク 原田さとみ氏にお話しを伺いました。(2017/10/31更新)(SUSTAINABLE BRANDS掲載記事

行政、企業・商店、市民団体などが一体となってフェアトレードを推進し、地域全体に浸透させることを目指す、フェアトレードタウン運動。世界の認定都市数は1800を超え、普及が遅れていた日本でも、熊本、名古屋、逗子の3都市が認定を受けている。日本のアプローチの特徴は、認定基準にFair Trade Towns Internationalが掲げる基本の5項目に加えて、独自の基準として「地域活性化への貢献」を設けている点だ。これは、途上国だけではなく国内でも貧困、格差などの社会課題が拡大する中で、日本の地域社会においてもフェアな社会・経済を築いていこう、というもの。具体的には、「地場の生産者や店舗、産業の活性化を含め、地域の経済や社会の活力が増し、絆が強まるよう、地産地消やまちづくり、環境活動、障がい者支援等のコミュニティ活動と連携している」ことを認定の要件としている。NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)代表理事の原田さとみ氏は、日本のフェアトレード運動についてこう話す。

「生産拠点が海外に移転したり、安価な輸入品の増大により、日本のものづくりは弱体化しています。それはこれまで私たちが、日本の優れた技術や製品を正しく評価してこなかった、フェアに対価を支払ってこなかった、ということ。途上国の課題を認識し支援することはもちろん重要ですが、それと同時に足元の課題にも向き合う。フェアトレードで地域の絆を深めて、地域の賑わいを創出しよう、そういうアプローチで日本では、フェアトレードタウン運動が広がっています。」

 フェアトレードタウン名古屋の取り組み


原田氏の地元、名古屋は、2015年にフェアトレードタウンの認定を得た。人口約230万人。東京、大阪に続く大都市圏の一つで、古くから日本のものづくりの中心、工業都市として発展してきた。一方近年は、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)(2010年)、持続可能な開発のための教育(ESD)に関するユネスコ世界会議(2014年)の開催地となり、世界の環境問題、社会課題が、市民の間でも身近なテーマとして議論される土壌が育まれてきた。こうした背景にも後押しされ、2015年、名古屋は日本では2例目となるフェアトレードタウン認定都市となった。

フェアトレードタウン名古屋の誕生祝賀パーティー Image credit: Eiji Wada

認定後、目的を失い活動が失速する都市もあるというが、名古屋では、行政や大企業を巻き込んだ活動が、ますます加速していると原田氏は話す。

「例えば教育機関との連携が始まりました。給食で使うゴマに、フェアトレードの商品を取り入れる機会が設けられたのです。食材の背景にあるストーリーについて、教室で教わるだけではなく、実際に美味しくいただくことで、子供たちの理解は深まります。また給食と同じタイミングで、地元のスーパーで同じ商品を扱ってもらうことで、子供たちの学びが学校内に留まらず、家庭や地域に広がるようにしています。」

名古屋を代表する文化にもフェアトレードの輪は広がっている。名古屋は、店舗数の多さと、ボリューム満点のモーニングサービス、また独特なメニューで、「喫茶店王国」と称されており、その象徴的な存在がコメダ珈琲店だ。1968年、名古屋で創業し、現在は全国に約800店舗を展開している。コメダ珈琲では2017年9月より、フェアトレードコーヒーの取り扱いを開始した。現在、全直営店11店舗で提供している。専用のマシンで抽出されるコーヒーは、フェアトレードというコンセプトに加えて、その新しい美味しさで、コメダ珈琲のファン層を新しい方向へ広げてくれるかもしれない。

 多様性を包括する「ビッグ・テント・アプローチ」


原田氏によると、名古屋では「ビッグ・テント・アプローチ」が、活動推進の鍵になっているという。

「フェアトレードラベルに限らず、多様なフェアトレードのあり方を認めていこう、というのがビッグ・テント・アプローチです。市民も企業も各種団体も、それぞれのアプローチがあって良い、大きなテントの下に集まりみんなで進めていこう、そういうアプローチで、名古屋は地域への浸透を進めています。ただビッグ・テント・アプローチについては、活動の進んでいる欧州を中心に、懸念する声があるのも事実です。」

ビッグ・テント・アプローチは、フェアトレードタウン国際会議でも議論されている。社会的、経済的、政治的、文化的な背景の違いを超えて、途上国を含む世界中に運動を広げていくためには、同手法が有効だとされる一方、幅広いアプローチを認めることで、本来の理念がうすまってしまう危険性を伴うからだ。

「欧米に比べ、日本の運動はまだまだ遅れています。この段階では、参入しようとする企業や団体をリスクの観点から排除するより、性善説に立って良いと思うのです。最初は小規模なフェアトレードでも、ビッグテントの下で、様々な活動とつながり合いながら、ゆっくり大きな取り組みへと育てていけば良いのですから。」

今後、欧米レベルに活動が発展していく過程で、日本も手法を変えていくべきなのか。同じ手法で進めるにしても、テントの大きさをどこまで広げるべきなのか。活動の拡がりとともに、日本でもますます議論が高まっていくだろう。

お話を伺った方

NPO法人フェアトレード名古屋ネットワーク(FTNN)
代表理事
原田さとみ氏